安泰寺

A N T A I J I

正しい坐り方3「坐禅を好きになること」

大人の修行 (その23)


 先月号で引用しました「坐禅の仕方」を地図に例えるならば、かなりおおざっぱな地図だったといえると思います。こういった地図を非常に注意深く扱わなければ、どこかの落とし穴に陥ってしまうのは間違いないでしょう。しかし、同じ沢木老師の手によるもっと詳しい「坐禅の地図」もあります。これは老師の処女作でもある「禅談」という本(1938年、大法輪閣発行)の付録の中にある「正しい坐禅の仕方」というものです。これを微妙に変えた「正しい坐禅の手引き」というのが「禅宗要典」(1968年、同じく大法輪閣発行)に載っていますが、両者が違わない限り、以降もっと読みやすい「禅宗要典」の文体を引用いたしたいと思います。

 これら2枚の地図も、やはりどこまでも地図であり現実ではありませんが、先月号で引用したものと比較すれば、坐禅の景色をはるかに現実に近いスケールで映し出しています。その違いは何でしょうか。私が思うには、先月の「坐禅の仕方」は口宣(禅の指導者が修行者に面と向って直接に与える注意)であり、人に読んでもらうために発せられた言葉ではありませんでした。これに対し、「禅談」と「禅宗要典」の「正しい坐禅の仕方」は最初から読者を意識して書かれたものです。口宣の場合は指導者は目の前で姿勢を組んでみせることもできますし、修行者たちの後を回ってそれぞれの姿勢を直接に直すこともできますから、言葉の表現がおおざっぱでも、いわゆる坐禅指導の「アフターケア」が行き届いていれば、修行者たちにとってはその方がむしろ身もって学べるのですが、本のなかの「坐禅指導」の場合は、それが不可能なのです。その分、本の著者も気をつけて微細なところまで書かなければなりません。しかし、いくら微細なところまで映し出そうと思って書いてみても、出来上がるのは地図であって坐禅の実物ではありませんから、沢木老師は「禅談」の「正しい坐禅の仕方」のはじめにこう述べられています。

 「本書に述べる坐禅の仕方は初心者の便宜のために極めて平易率直に誰にでも随所に実行出来る様にと思うて示したものであるが、更に深く参究せんとする志のある方はこれを手ほどきとして、更に正師に就いて指導を受けられるとよい。」

 「禅談」の付録は二つの部分からなっています。最初の部分は「普勸坐禪儀」を原文のまま、そのあとの「正しい坐禅の仕方」は実、瑩山禅師の「坐禅用心記」を元に作られています。沢木老師のそれぞれの指示の後に、「坐禅用心記」の言葉が引用されています。以降はその引用のほとんどを略したいと思います。まずは20ページにも及ぶ「正しい坐禪の仕方」の目次を見てみましょう。

1) 坐禪にかゝるまで
道場の選び方 道場の整へ方 身體の整へ方 衣服の整へ方 坐所の整へ方

2) 坐禪の身構へ

3) 坐禪の心構へ 心を何處に置く 坐禪の心構へ

4) 坐禪中の心得 睡くなった時どうする 經行の仕方 巡香と云ふこと 合掌の仕方 禮拜の法 坐禪の長さ  来月は「道場の選び方」から始めようと思いますが、今回は最後の「坐禅の長さ」だけを見て終わりたいと思います。「禅談」からの引用です。

 「坐禅の時間は、短かくても張り切った方がよい。時間の長短よりも真剣な工夫の有無による。一回二三十分から一時間位でよい。長くしなければならぬ様に考へると億劫になる。只しばしば行ふがよい。所謂坐禅を好きになることが肝要である。」

 叢林の一員として坐る場合は、当然その叢林のやり方に従って坐禅を行わなければなりませんので、一回の坐禅の長さはその道場で決まっているはずです。一回の坐禅は正しく「一?の坐禅」といいますが、「一?」は線香一本が完全に燃えきるために必要な時間ですが、その時間の長短は当然線香にもよりますし、すきま風が禅堂の中で吹けばかなり早くなるのに、梅雨で線香が湿っている時などは、逆に長くなりますから、線香ではなく時計で坐禅の時間を計るのは一般的です。途中で立ち上がって座布団を離れることもいけませんし、皆が座から立って経行している時、「深い三昧に入った」とか何とか言って一人で坐り続けるのもよくありません。どこまでも皆に合わせるべきです。安泰寺では接心中の一?の坐禅は45分、それ以外の日はだいたい一時間です。  しかし、一人で坐っる場合は、坐禅の長短を決めるのは自分自身の自由です。ここで一番大事なのは、沢木老師のいう「坐禅を好きになること」です。何しろ、坐禅が本当に好きな人でなければ「何もならない坐禅」は長続きしないのです。坐禅はしたくてするものであって、仕方なくするものではありません。嫌々ながら「させられる坐禅」はこれから勉強したい坐禅と何の関係もないのです。   (続く・堂頭)

Switch to Japanese Switch to Spanish Switch to French Switch to German Switch to Italian Switch to Polish Switch to Russian