安泰寺

A N T A I J I

正しい坐り方 6「おもちゃのない接心」

(大人の修行 その26)


 瑩山禅師の「坐禅用心記」の「海邊酒肆婬房寡女處女妓樂の邊、並びに打坐すること莫かれ。・・・深山幽谷之に依止すべし。緑水青山、是れ経行の處、渓邊樹下、是れ登心の處なり」という部分を読んでも分かるように、坐禅は何も室内に限られたものではありません。水辺でも、木の下でも坐禅は出来ます。ただ、「国王、大臣、權勢の家、多欲名聞戯論の人」に近い所のほか、高い所も危険だと瑩山禅師は忠告しています。

 安泰寺の山を下り、大阪城公園でテント暮らしを始めたのは今からおおよそ4年前のことです。師匠が亡くなるまでの半年間の「ホームレス雲水」経験となりました。当時は毎朝2?の坐禅を外の堀の上で坐りました。その時の経験から言えば、野外坐禅の場合で一番考量しなければならないのは「湿気」です。深い谷間よりも、たまに座布団が干せるような場所がいいでしょう。しかし、日が直接にあたるような所もさけた方がいいですから、木の下など、ある程度守られた空間がいいと思います。もちろん、雨に濡れても困ります。テントの中であっても、雨が数日間続きますと、蒲団も衣類も全部湿気でジットリしてしまいます。ぬれた蒲団で坐ったり寝たりすると病気になりますので、野外の暮らしの場合は雨が長引いても如何にぬれないで生活できるかが工夫のポイントの一つになるはずです。私の暮らしも、雨との苦闘でした。いつも室内で坐禅していれば、「野外の坐禅」なんてロマンチックにさえ聞こえるかもしれませんが、いざ雨が降り出すと、頭の上に屋根があるというありがたさが初めて分かるものです。また、野外の坐禅は堂内の坐禅と同様、忍辱の婆羅蜜を実践する機会でもあります。虫に刺されたり、カラスや鳩にイタズラされたり、野良猫や犬に遊ばれたりすることはもとより、周りに彷徨いている人たちが写真を撮ったり、声をかけたりしますし、朝にラジオ体操あり、夕方にブラスバンドの練習あり、臘八接心の最中、テントの横にドラムスを建てて一日中ドラムスティックで叩かれて坐禅したこともあります。

 もう一つ、大阪城公園の経験から言えることは、堀というような高い所で坐ると、普段は居眠りせずに集中して坐れますが、それでも居眠りしてしまうと、非常に危険であり、また冬など風が吹くと寒くもあります。そのためか、沢木老師は「正しい坐禅の仕方」を以下のように続けています。

身體の整え方

イ)睡眠不足の時や、極度に疲勞してゐる時は避ける方がよい。 ロ)食べ過ぎたとき、極度に空腹の時及び酒を飲んでゐる時は避ける方がよい。 ハ)食物に注意して不消化物等はなるべく避け、昂奮する飲食物もたらぬ方がよい。 ニ)食物の分量をひかへ目にして腹八分の程度とし、美食に耽溺せぬこと。 ホ)食後はしばらく休憩して坐禅するのがよい。 ヘ)坐禅にかゝる前に目を洗ひ、足を洗って、爽やかな氣持になって道場に入るがよい。

 瑩山禅師の「坐禅用心記」では「腹八分」ではなく、「三分の中に二分を食して一分を余すべし」とありますが、食べ残すわけには当然いけませんので、最初からいつもの三分の二を取りなさいということでしょう。

 また坐る場所を図書室の2階から元の禅堂に戻したことのほかに、接心の差定も変えました。いわゆる「安泰寺式の接心」は、40年前の沢木老師遷化後、跡継ぎの内山老師が考え出したものです。内山老師が目指していたのは、1?の坐禅として接心全体が坐れるような、坐禅以外に何の邪魔物もない差定だったと思います。ですから、警策も回さず、提唱もせず、作務も掃除もせず、お経も読まず、お風呂も入らずと言う、5日間の無言接心が創造されたのです。内山老師はこのような接心を「おもちゃのない接心」と呼んでいました。5日間ぶっ続けて、自分が自分で自分を自分するのみです。京都の旧安泰寺の接心では1日坐禅が14?、この接心を2月と8月を除く毎月の第一日曜日を挟む5日間で実行されました。ただし、7月と9月は3日間だけの接心となりました。接心のない日曜日では、「一日接心」がありました。

1965 〜 1977 安泰寺の接心差定 1977 〜 2002 4:00 振令 4:00 4:10 坐禅 (1) 4:01 5:00 経行 5:00 5:10 坐禅 (2) 5:10 6:00 朝食 & 休憩 5:50 7:10 坐禅 (3) 7:00 8:00 経行 8:00 8:10 坐禅 (4) 8:10 9:00 経行 9:00 9:10 坐禅 (5) 9:10 10:00 経行 10:00 10:10 坐禅 (6) 10:10 11:00 経行 11:00 11:10 坐禅 (7) 11:00 12:00 昼食 & 休憩 11:50 13:10 坐禅 (8) 13:00 14:00 経行 14:00 14:10 坐禅 (9) 14:10 15:00 経行 15:00 15:10 坐禅 (10) 15:10 16:00 経行 16:00 16:10 坐禅 (11) 16:10 17:00 経行 17:00 17:10 坐禅 (12) 17:10 18:00 薬石 & 休憩 17:50 19:10 坐禅 (13) 19:00 20:00 経行 20:00 20:10 坐禅 (14) 20:10 21:00 就寝 21:00

 以上は京都時代の「昔の安泰寺」(1965年以降)と3年前の久斗山の安泰寺の接心差定です。京都では毎月1回、5日間の接心が行われ、その他に日曜の一日接心が月に3回行われていたようです。久斗山の安泰寺では接心は毎月2回、5日間と3日間で行われています。京都の差定と久斗山のそれは微妙に違います。京都ではそれぞれの1?の坐禅の長さは50分でしたが、久斗山の安泰寺では、4時、7時、13時と19時で始まる1?の坐禅は10分間長くなり、食事前の1?は10分間短くなりました。ですから、久斗山では一日14?の内、4?は60分間、7?は50分間、3?は40分間という計算になります。なお、3年前に接心の差定を次の通りに変えました。

2002 〜 新・安泰寺の接心差定 4:00 振令 4:01 坐禅 (1) 5:00 経行 5:15 坐禅 (2) 6:00 経行 6:15 坐禅 (3) 7:00 経行 7:15 坐禅 (4) 8:00 経行 8:15 坐禅 (5) 9:00 朝食 & 休憩 10:15 坐禅 (6) 11:00 経行 11:15 坐禅 (7) 12:00 経行 12:15 坐禅 (8) 13:00 経行 13:15 坐禅 (9) 14:00 経行 14:15 坐禅 (10) 15:00 薬石 & 休憩 16:15 坐禅 (11) 17:00 経行 17:15 坐禅 (12) 18:00 経行 18:15 坐禅 (13) 19:00 経行 19:15 坐禅 (14) 20:00 経行 20:15 坐禅 (15) 21:00 就寝

 つまり、今は1日2食しか食べず、15?坐っていますが、1?の長さは5分間短く、45分です。朝4時からの1?目だけは相変わらず1時間の長さです。ということは、前よりは1?多いですが、坐る時間は前の差定より20分間短いです(前:1日710分間、今:690分間)。その分、経行の時間はかなり長くなりました(前:1日100分間、今:180分間)。休憩時間は若干短くなっていますが、以前3日目と5日目の昼食の後に行っていた掃除の時間はもうありません。接心中は一切お経を読まず、提唱もせず、作務も掃除もありません。あるのは坐禅、経行、食事、就寝の時間の他に、それぞれの雲水の公務(典座・直堂・田畑の見回り、水管理・鶏やその他の動物の世話)のみです。

 では、差定を変えた理由は何だったのでしょうか。実はいくつかの理由がありますが、その主なものは食事と肉体の疲れと関係しています。来月に続く・・・ (堂頭)

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