流転海47号

安泰寺文集・平成22年度


美佐 (ベルリン・33歳)


2010年10月12日 

これまで、約4年間ほど一緒に暮らして来た芸術家たちと離れて、また新たな暮らしをする事になった。
次の場所は、ドイツのベルリン。

今は、飛行機の乗り継ぎの待ち時間の為に、デンマークのコペンハーゲン空港にいる。
まわりは、知らない人々ばかり。
斜め前には、足を大きく組み、チョコレートをかじりながらパソコンに向かっている男性。左には、スドクをひたすら解きつづけるおじさん。品の良さそうなおばあさんが、背筋を伸ばし、こちらを見て微笑んでいる。これからバカンスにでも出掛けるのか、テンションの高いヨーロピアンの女子たちの声が聞こえてくる。ビシッとスーツを着込み胸を張って歩いていく男性、かっこいい。
そして、そんな中に私も交ざっている。

人にはそれぞれの人生がある。
これまでの経験、これから起こるであろうことの狭間にある現実を引っさげて、今、この時を空港で共有している。旅という共通の目的を持った人びとだ。
私は、そんな空港の空気が大好きだ。

安泰寺の文集への記事を依頼されて、正直、戸惑ってしまった。日々、考える事はいろいろあるのだけれど、いざ文章にしようと思うと、何から書けば良いのか、何を書けばよいのか、モノごとがただ頭の中をぐるぐるまわるだけだ。こうやって、書き始めながらも、さて、どこに向かっているのやら、ぜんぜん解らない。思うのだが、今の私の状態は、まさしくこういう事なのかも知れない。

故郷の三重県を離れ、大阪、滋賀、京都、スイス、淡路島での生活を経て、今はベルリンにいる。
音楽という柱を軸に、いろんな場所で、いろんな人に出会い、いろんな暮らしを見て来た。そして、そのような暮らしの中に交じり、私なりの生き方を発見しようとしている。まだまだ、知らない事も多いだろうけれど、少なくとも、簡単に人を信じるのではなくて、自分の信じた道を行かなければ、どこにいても生きている心地がしないということを学びつつある。三重県の田舎で、3歳から15歳まで1クラス19人の変わらない友達、そして変わらないご近所さんの中で育ってきた私は、人はみなやさしくて、親切で、滅多に嘘はつかないし、近くに悪い人なんかそう簡単にはいないはずだと思ってこれまで過ごして来た。でも、今の生活の中ではそうはいかない。では、どうしてわざわざこのような生活をしているのか?と問われても、それもわからない。わからない事づくしで、手探りの続く生活だが、今の私には、この道以外に考えられない。

誰かは言う。
「いったい、何が楽しくてそんな暮らしをしているの?」
誰かは言う。
「タフになれ!」
誰かは言う。
「あなたを愛している」

月並みな言い方しか出来ないけれど、それもこれも経験しながら、山あり谷ありで進んでいく道以外に無いのだろうなと思う。

約3年ほど前に、友人から安泰寺のことを教えてもらい、そして毎朝座禅をするようになった。毎朝座る事が、日々の暮らしにどのような影響を与えているのかは、これもよくわからないが、はっきり言えるのは大切な時間だということ。背筋をのばし、呼吸を整え、自分と向き合う時間が一日に45分間ある事により、心と体がリセットされるように思うのだ。最近になって、はじめて、澤木興道氏の本を少し読ませて頂いた。ベルリン移住を前に、少し不安が増していたせいか、横っ面を平手でピシャンと引っ叩かれたような気持ちになりました。


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