流転海46号

安泰寺文集・平成21年度


陽一郎 (岩手県・五十七歳・擬岩デザイナー)


 七十年以上も農業一筋の叔父を先日、盛岡の病院に連れて行った。膝の痛みで農業が思うように出来なくなったからである。八十一歳でまだ現役でやろうとしていることに医師は驚いていたが、結果的には手術をしても膝が良くなるわけではないと知らされ、叔父はガッカリしていた。待合室にいる間、とりわけ私が感じたことは、よちよち歩きの高齢者の患者が予想を超えて多いことであった。腰の痛み、膝の痛み、肩の痛みなどで家族に付き添われながら、やっとのことで病院まで辿り着いた人が随分いたようだった。歩くことがいかに大変なことかをよく理解できた。高齢になるまで徐々に足腰が弱ったのだろうか。叔父もかなり前から膝の調子が悪かったのだが病院を敬遠して自分で塗り薬などを買って済ましていた。勿論、準備運動や健康体操、矯正運動などは必要ないと考えていて、診察の際、医師から膝の為に軽い矯正運動を教えられても、運動を軽く考えているのか家に帰ってもやらなかった。説得しても笑って運動など必要ないと取り合ってくれない。ところで、私は趣味がマラソンで各地の市民マラソンの大会に時々参加している。順位ではなく、自分で設定したタイムを目指して走る。(したがって時計を外して走る)。参加するたびに驚くのは七十歳以上の高齢者でも三十歳代の人達と互角に走れるような筋力、体力を持っている人がいるということである。先日、遠野市でマラソン大会が開かれた時など、(柳田国男の「遠野物語」発刊百周年記念ということもあって二千人近い人が参加したのだが)五キロや十キロ、ハーフマラソンに高齢者が懸命に走っていた。後で送られてきた記録表を見ると、例えば五キロのレースでは三百人走った中学生の上位三分の一に入る二十二分八秒というタイムで走った七十一歳の人もいるし、八十一歳で五キロを三十分で走り切っている人もいる。彼らは、いったいどのような鍛え方をしているのだろうか。大病院の待合室で見た膝や腰を痛めて歩けない高齢者の姿を思い起こしながら、つくづく運動の必要性を感じている。歩行運動やジョギングは、足腰を鍛えると同時に血糖値を管理し、血圧を安定させると思う。有る意味で薬よりも重要ではないかな。又、市民マラソンなどに参加することは仲間を作り会話を弾ませると同時に笑顔を作る。残念なことに体操や運動を軽く考えてやらない人が多いようだが、自分の健康を維持するためには、身近に「やれる運動」をいつでも心掛けたほうが病院に行く機会を多分減らせる。そう考えながら、周りの人達に健康マラソンや運動の良い点を話すようにしている。うちの母は八十五歳にして毎朝、夜明けと共に十分ほど散歩している。その為なのか、記憶がしっかりしている。終わりに遠野マラソンでの私は、十キロを四十一分に設定して結果は四十一分十九秒だったことを書き添えます。


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