流転海46号

安泰寺文集・平成21年度


美佐子 (埼玉県・五十一歳・パート)


 性懲りもなく、ことしも澤木興道老師の墓参りに、たった三泊の短期滞在をさせていただきありがとうございました。     

 今年は、自営業を六月に廃業し長年従していた商いという職から身を引いてみると思ったよりすっきりとした気分になりました。色々なしがらみから開放された感じです。

 商売とは、まさしく差益による利益を生業とします。利益と効率を第一優先に考え、頭の中でそろばんをはじきながら、ちょっと生臭いところもあります。

 一度しかない人生、これからはいままでとは違う生き方をしてみたいと思っています。本を読んだり版画を彫ったり、絵を見に行ったり、他人と語り合ったりしています。私にとって、趣味の版画は眼に見えず表に表せない心の動きを、表に具体的な形として表すもののようです。だから何を彫るかが問題で、私の心を動かす彫りたいものに出会う事が大事な事柄なのです。心を動かすとは、感じることです。いいものをたくさん感じることです。不利益と非効率な事、かもしれませんが、私の中ではそういうことなのです。

 いま仕事は販売から製造の仕事(とは言ってもパートですが)化粧品の下請けの工場で化粧品の流れ作業をひたすら、やっています。ちょうど安泰寺で行った作務を思い出します。田んぼの草取りとその周りの草を刈った片付けです。本当にいつ終わるとも知れない草の山と、足腰の疲れとのどの渇き、一緒に作業をした仲間、青木さんジェフさんキムさんが居なかったら、逃げ出していたでしょう。ジェフさんはカミュのシューシュポスの神話に出てくるシューシュポスのようにもくもくと作業を行い、本当に頭の下がる思いでした。キムさんも両手いっぱいに草を抱え頑張りました、青木さんは青白い顔でいまにも倒れるんじゃないかと思う程でしたが弱音も吐かずにやり通しました。良い人たちに出会えて本当にありがとうございました。延々と続くベルトコンベアーの流れ作業もあの時の安泰寺での作務が有ればこそ出来ているのではないかと大げさながら思ってしまいます。

 藤堂さんの許可を得ていただいた(甲子園球児のまねですが)澤木老師の墓の前の砂大事に瓶に入れて机の上に置いています。私の安泰寺の思いと共に頑張る力になっているようです。


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