中谷正覚
昨年の九月に、私にも初孫ができました。娘の加奈は私にも妻にも相談もせずに、その孫に『遊』という名を与えました。妻は少々憤りました。理由は、第一に不真面目で遊びほうけるような人間に育つのではと心配したため、第二に娘の加奈は、小学校、中学校、高校、に於いて、勉強が大嫌いで、遊びが大好きで、(中学生の頃はマンガ家になるのだと言って何百冊ものマンガ本を買いました)妻の教育熱心に一貫して反抗して育ったので、その血を継いでしまうのではと心配したため。
しかしながら、私は次の理由にて賛成しました。第一に、初孫はこの世でたった一つの生命なのだから他人と同じような名前ではなく独創的で深い意味のある名がよいと考える。第二に“観音経”に於いて、観音様は仕事(義務)として一切衆生を救うためにこの世に出現なさっているのではない、観音様は一切衆生を救うために無我夢中で遊ぶがごとくに活躍なさっておられるではないか。第三に、初孫の「遊」ちゃんもこの観音経中の『遊』を身につけて将来は大きな活躍をする女性となるだろう、と。
今日は、遊ちゃんは、人生で初めて靴を履いて歩きました。黄や赤に染まった雑木が茂る高原の秋のバラ園の中です。最初はイヤダイヤダと靴を脱ごうと小さな手で引っ張っていました。しかし、木片チップを敷きつめた小道は、小川も橋もあって、バラも咲いていて、室内歩きとは別世界の楽しく変化のあることを体験しました。
私は六十七才ですが、特許事務所の仕事をもう少し続けたいと願っています。売上額も十年前の半分となってきましたが、今は、楽しみながら、過去の知識と経験を活かして、特許庁への出願書類(明細書・図面)を作成できる時節の到来と考えています。“遊び心”をもって、依頼された発明に、楽しいアイデアを(無料で)プラスすることも、自由にできます。
所員の中にも色々なタイプの人間が居ます。外国への特許出願(国際出願)を担当するM君は、勤務時間のほとんどの時間は、天上を眺めたり、百科事典を読みふけったり、遊んでいる雰囲気ですが、不思議なことに、りっぱな英語翻訳が期限内に出来上がってくるのです。最近は、世界の中の多数の国へ一件の国際出願で済ませる依頼が増えつつあり、私の事務所で十五年勤務のM君も“遊び心”を忘れずに生き生きと仕事に励んでいます。