流転海08

安泰寺文集・平成20年度


陽一郎  (岩手県・56才・擬岩デザイナー)


今日一日の出会い

茜色に縁取られた夕空の雲
はちきれそうな雲をよぎる雁の群れは
瞬間 鮮やかに染まる
リズミカルな羽ばたきの彩絵
僕は その時
雁と直線で結ばれる
偶然の出会いを あかね雲に捉えて
鳥の心を気遣う

 たとえ 雲に入って 凍えた雪片が
 燃えたぎる呼吸を 止めようとしても
 安らぎの湖に向かって
 何事もないように ひたすら
 飛び続けることができるだろうか

移りゆく夕暮れは ゆかしい
息を止めてみると 間違いなく
幼い頃の残像が 煌めいている
今日一日限りの出会いは
視界の雁が消えた後も
この空に 余韻を残すだろうか
何事もなかったように
僕は 夕空から
息を吸い込んだ



赤い花

「今」があって確かな過去と不確かな未来がある
ところが「彼岸」は何時でも今と過去とを繋いでいる
過去と未来を確実に交差させているのだ
一見、直線で引いたような過去から現在に至る関係
過去を基底に一方向に流れ、曖昧な未来を前にする
しかし、その日は円を循環するように時が巡るー

  薄暗い夜明けの中に まるで弔いの灯りのように
  咲いていた曼珠沙華
  西空の燃える色より なお赤く鮮やかに
  ほおずきの熟れた実より なお赤く濡れていた
  ほんとうに そう見えた ああ何でなの
  追憶から頭を激しく揺さぶると
  瞼に懐かしい光景が浮かんだ
  目を閉じて地面に耳を当てると
  熟れた実より なお赤く潤んで咲く花の
  熱い想いが 脈を打つように聞こえた
  ほんとうに そう聞こえた ああ何でなの

  彼岸の中日 僕は
  過去の大切な人を
  赤い花に潜む想いから捉え
  薄れゆく過去の記憶を
  鮮明に戻すことを
  未来に懇願していた
  何時の日か願いは届くだろう
  時は確かに
  循環しているのだから


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