流転海08

安泰寺文集・平成20年度


美佐子 (埼玉県・50才・文房具店)


 昨年の文集に目を通すほどに、懸命に修行に励んでいらしゃる方々と、同じ土俵で文を提示するのは、申し訳ない気持ちです。

 私は、ゆっくりと息をし、ゆっくりと解かっていくタイプです。座禅を始めたからといって、すぐに何かが変わった訳でも、解った訳でもありません。文房具店を営んでいる当店に近くの和尚さんが買いにいらしたので、「和尚様の御話を聞く機会はありますか」と尋ねたところ、「日曜日に座禅をやっているからいらっしゃい」と言われたのがきっかけです。

 西光寺の和尚さんが駒沢大学で教えている事も、そこの次男の方が哲学を専攻されていたことも後から知りました。ですからお寺には、宝のような本がたくさんありました。ゆっくりと読み進めました。西嶋和夫氏の書物は初心者の私にも解りやすく、読んでいくうちに、澤木興道師の座禅会に出席したとありました。そこで、澤木興道師について調べたところ安泰寺に辿り着いたという訳です。

 でも、家族が有る私が店を休んで安泰寺に行くわけにもいかず、週末と参禅日が重なるのを待ちました。

 安泰寺の空気をゆっくり吸い込みました。

 あまりゆっくり呼吸していたもので、座禅の終わりごろには酸素不足で、眼が回り倒れそうでした。

 お堂に掲げてある「帰命」の文字とともに、魂もゆっくり呼吸したような気がしました。これが私の収穫でした。埼玉に帰ってからもゆっくり、息をしながら、安泰寺を思い起こします。安泰寺のホームページを見ては、久斗山の上空を、思い起こします。異国の日本で雲水の方々は、本当によく励んでいらっしゃいました。農作業はご一緒しませんでしたが、参禅日であっても、筍を掘ったり、野火をかけたり、はしごをかけてかわらの修理をしたり、鳥小屋の糞を軍手でバケツに入れたり、つくしを料理にすると下ごしらえをしたり、あたりまえのことなのでしょうが、安泰寺で修行に励んでいらっしゃる方々がいらっしゃるその事が、在家の私にとって、励みになるのです。それが 帰命 そのものの様であると感じています。

 人懐っこい子供たちも、本当に愛らしかったです。帰り際、庫裏の端のへやの障子の窓枠に乗って、体いっぱいに、私に手を振ってくれた人がいました。たぶん ともみさんだったのではないかと後から思いました。そのせいいっぱいの応援が、安泰寺を去る私のはなむけのように思いました。有難うございました。

 週に一度の座禅ですが、これからもゆっくり呼吸しながら暮らして行きたいと思います。


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