じゅんいち (東京都・25才・無職)
エサの無い坐禅―。
安泰寺に参禅して10日ほど経つが、将にこの意を身心で痛感している。
己の菩薩修行に必要な材料は全て揃っている。
するべきことも大体において承知している。
だのに、なのに、なぜ私は焦燥に駆られるのだ。
隣の芝生は荒らさぬと固く心に誓ったはずなのに。
隣の芝生が青く見えて仕方がない。
生まれて初めて心の底から自分自身に絶望している。
一切衆生を済度する前に、どうやら私が叱咤されそうだ。
再び脚下を照らし顧みようと思う。
現在、自分の身近な人に何も言わないまま、この叢林で筆を執っている。
ありのままの事実を告げることを恐れていたから。
自分自身にすら上手に話すことができなかったから。
誤解を招かぬよう最大の配慮を施したつもりだが、己が未熟である以上、
どうしてもガキの所業として顕れてしまうのだろう。
安泰寺は一般の禅寺と異なり、参禅希望者を門前払いすることはない。
規矩も柔軟性があるし、堂頭和尚も温和な方だ。
だからこそ、自分自身に然るべき評価をしなければならないと思っている。
畢竟じて、安泰寺に来るは何の用ぞ。
自分は未だにスタートラインにすら立っていない。