流転海08

安泰寺文集・平成20年度


じゅんいち (東京都・25才・無職)


 エサの無い坐禅―。
 安泰寺に参禅して10日ほど経つが、将にこの意を身心で痛感している。
 己の菩薩修行に必要な材料は全て揃っている。
 するべきことも大体において承知している。
 だのに、なのに、なぜ私は焦燥に駆られるのだ。
 隣の芝生は荒らさぬと固く心に誓ったはずなのに。
 隣の芝生が青く見えて仕方がない。
 生まれて初めて心の底から自分自身に絶望している。
 一切衆生を済度する前に、どうやら私が叱咤されそうだ。
 再び脚下を照らし顧みようと思う。
 現在、自分の身近な人に何も言わないまま、この叢林で筆を執っている。
 ありのままの事実を告げることを恐れていたから。
 自分自身にすら上手に話すことができなかったから。
 誤解を招かぬよう最大の配慮を施したつもりだが、己が未熟である以上、
 どうしてもガキの所業として顕れてしまうのだろう。
 安泰寺は一般の禅寺と異なり、参禅希望者を門前払いすることはない。
 規矩も柔軟性があるし、堂頭和尚も温和な方だ。
 だからこそ、自分自身に然るべき評価をしなければならないと思っている。
 畢竟じて、安泰寺に来るは何の用ぞ。
 自分は未だにスタートラインにすら立っていない。


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