流転海07

安泰寺文集・平成19年度


陽一郎   (大船渡市・五十五歳・擬岩デザイナー)


「ひととき」

夏の日差しが眩しくて
燃えるような昼下がり
時折 頬を撫でる風に
汗の雫が流れ出る
畑と語る青い空
陽炎は とても静か
夏の花が好きだから
向日葵を育てようか
ゆっくり土を掻き回す手の中に温い湿り気
土を覗き込む
豊穣な黒土に
ミミズが住む畑
鉢から向日葵を移し
時を忘れ丹念に
土を触る
まっ黒な掌
水気と生物に溢れる掌
泥と土の中に不思議な感触を味わう
やわらかな土の心地よさ 命を育む楽しさ
言葉のいらない深い理解
身近な土が こんなに 心を捉えるのか
いま 土と語り合う ひとときは
魅惑ばかり


砂時計 

街の明かり
遠い月の世界から
泉に流れ込むように煌めくと
海辺の小さな喫茶店に
影法師が降りる
ゆるやかな夜の風
赤煉瓦の壁に透くから
扉を開けて
窓辺の席に坐ると
砂時計の音
まるで
鳥のささやき

 今夜は このまま
 月を見ていたいな
 きっと フクロウが遊びに来るから

大自然の夜は
いつも いつも
影絵のよう
遠い月の世界から
やわらかに
星を誘いながら
砂時計の音を
創る

ブルーマウンテンは香りやわらか
澄んだ喫茶店の窓辺で
月と話しながら
きざむ時の香り


自 然 鏡

命の滴 風の中に舞う
大気との同化
 それは誕生の瞬間
大自然の知恵によって
命の明かりが灯り
運命を携えて
地球という
船に乗り込む

だけど宇宙に向かう船室は
多様に溢れ 時に諍いで いっぱい
荒れ狂う心は波立ちを誘い
大自然の知恵を裏切る

「仲良くしていこうよ」

宇宙に向かう
一緒の旅を
しているのだから
荒れ狂う波に騒ぐより
お互いの心を認め合って
よい知恵を見つけ出そう

碧空は いつでも
美しい星空に
導く窓を開いて
地球船が通るのを
きっと 待っている

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