たいていの人間は忙しい、忙しいと言うておる。何で忙しいかと言えば、煩悩に使われて忙しいだけの話じゃ。坐禅しておればヒマである。天下一のヒマ人になるのが坐禅人である

『坐禅をすると妄念がおこります』と言うてくる人がある。―― そうじゃない。坐禅すればこそ妄念がおこっているのがよくわかるのだ。妄念ぐるみのくせにダンスでもしておれば、それが全然わからないでいるまでじゃ。坐禅している時には蚊一匹とんできても『やっ、くいついたな』とよくわかるが、ダンスしておる時には、ノミがキンタマにくいついておってもわからず、夢中になって踊っておるやないか。

一種の陶酔というものを信心と、よう間違うんじゃ。アリガタキに似た陶酔、妄想というものがある。―― いやそんなすべての陶酔がさめ切ったところが信心なんじゃ.

何か有難いに似た陶酔を、信心と間違えてもろおては困る。坐禅はいい気持ちがする。そんな坐禅にふけることを三昧と間違えてはならぬ。それは有難いに似た妄想が起こっただけのことである。
正しい仏法は、こんな陶酔の覚めきった処でなければならぬ。ところが宗教屋としては、この陶酔というやつが大切な商売のネタである。だから私のようなことを言う者はおらぬ。

信とは「澄み浄き」ということである。ノボセの下がったことである。それをノボセ上がることを「信」だと思って、一生懸命ノボセ上がろうとするが、なかなかノボセられぬ。そこでノボセタ真似している奴さえいる。

三昧とは、自分ぎりの自分であり、自性清浄心である。坐禅だけが、自分ぎりの自分であることができる。坐禅のとき以外はいつでも他人より勝れたい、他人より楽しみたい根性がでてくる。

信仰ということも非思料ということも、「随順」することである。何に随順するか? 随順とは「長いものにはまかれろ」ということではない。…信仰とは「澄浄」の儀 ――シズマルこっちゃ。

   草の庵に ねてもさめても 申す事 南無釈迦牟尼仏 憐み給へ

正法眼蔵・道心 ①佛道をもとむるには、まづ道心をさきとすべし。道心のありやう、しれる人まれなり。あきらかにしれらん人に問ふべし。よの人は道心ありといへども、まことには道心なき人あり。まことに道心ありて、人にしられざる人あり。かくのごとく、ありなししりがたし。おほかた、おろかにあしき人のことばを信ぜず、きかざるなり。また、わがこころをさきとせざれ、佛のとかせたまひたるのりをさきとすべし。よくよく道心あるべきやうを、よるひるつねにこころにかけて、この世にいかでかまことの菩提あらましと、ねがひいのるべし。
②世のすゑには、まことある道心者、おほかたなし。しかあれども、しばらく心を無常にかけて、世のはかなく、人のいのちのあやふきこと、わすれざるべし。われは世のはかなきことをおもふと、しられざるべし。あひかまへて、法をおもくして、わが身、我がいのちをかろくすべし。法のためには、身もいのちもをしまざるべし。
③つぎには、ふかく佛法僧三寶をうやまひたてまつるべし。生をかへ身をかへても、三寶を供養し、うやまひたてまつらんことをねがふべし。ねてもさめても三寶の功徳をおもひたてまつるべし、ねてもさめても三寶をとなへたてまつるべし。たとひこの生をすてて、いまだ後の生にむまれざらんそのあひだ、中有と云ふことあり。そのいのち七日なる、そのあひだも、つねにこゑもやまず三寶をとなへたてまつらんとおもふべし。七日をへぬれば、中有にて死して、また中有の身をうけて七日あり。いかにひさしといへども、七七日をばすぎず。このとき、なにごとを見きくもさはりなきこと、天眼のごとし。かからんとき、心をはげまして三寶をとなへたてまつり、
南無歸依佛、南無歸依法、南無歸依僧 ととなへたてまつらんこと、わすれず、ひまなく、となへたてまつるべし。
④すでに中有をすぎて、父母のほとりにちかづかんときも、あひかまへてあひかまへて、正知ありて託胎せん。處胎藏にありても、三寶をとなへたてまつるべし。むまれおちんときも、となへたてまつらんこと、おこたらざらん。六根にへて、三寶をくやうじたてまつり、となへたてまつり、歸依したてまつらんと、ふかくねがふべし。
⑤またこの生のをはるときは、二つの眼たちまちにくらくなるべし。そのときを、すでに生のをはりとしりて、はげみて南無歸依佛ととなへたてまつるべし。このとき、十方の諸佛、あはれみをたれさせたまふ。縁ありて惡趣におもむくべきつみも、轉じて天上にむまれ、佛前にうまれて、ほとけををがみたてまつり、佛のとかせたまふのりをきくなり。
⑥眼の前にやみのきたらんよりのちは、たゆまずはげみて三歸依となへたてまつること、中有までも後生までも、おこたるべからず。かくのごとくして、生生世世をつくしてとなへたてまつるべし。佛果菩提にいたらんまでも、おこたらざるべし。これ諸佛菩薩のおこなはせたまふみちなり。これを深く法をさとるとも云ふ、佛道の身にそなはるとも云ふなり。さらにことおもひをまじへざらんとねがふべし。
⑦又、一生のうちに佛をつくりたてまつらんといとなむべし。つくりたてまつりては、三種の供養じたてまつるべし。三種とは、草座、石蜜漿(しゃくみつしょう)、燃燈なり。これをくやうじたてまつるべし。⑧又、この生のうちに、法華經つくりたてまつるべし。かきもし、摺寫(しょうしゃ)もしたてまつりて、たもちたてまつるべし。つねにはいただき、禮拜したてまつり、華香、みあかし、飮食衣服もまゐらすべし。つねにいただきをよくして、いただきまゐらすべし。
⑨又、つねにけさをかけて坐禪すべし。袈裟は、第三生に得道する先蹤(せんしょう)あり。すでに三世の諸佛の衣なり、功徳はかるべからず。坐禪は三界の法にあらず、佛祖の法なり。
        
ヨブ記(口語訳)
第1章 ①ウヅの地にヨブという名の人があった。そのひととなりは全く、かつ正しく、神を恐れ、悪に遠ざかった。②彼に男の子七人と女の子三人があり、③その家畜は羊七千頭、らくだ三千頭、牛五百くびき、雌ろば五百頭で、しもべも非常に多く、この人は東の人々のうちで最も大いなる者であった。 …⑧主はサタンに言われた、「あなたはわたしのしもべヨブのように全く、かつ正しく、神を恐れ、悪に遠ざかる者の世にないことを気づいたか」。⑨サタンは主に答えて言った、「ヨブはいたずらに神を恐れましょうか。⑩あなたは彼とその家およびすべての所有物のまわりにくまなく、まがきを設けられたではありませんか。あなたは彼の勤労を祝福されたので、その家畜は地にふえたのです。⑪しかし今あなたの手を伸べて、彼のすべての所有物を撃ってごらんなさい。彼は必ずあなたの顔に向かって、あなたをのろうでしょう」。⑫主はサタンに言われた、「見よ、彼のすべての所有物をあなたの手にまかせる。ただ彼の身に手をつけてはならない」。サタンは主の前から出て行った。⑬ある日ヨブのむすこ、娘たちが第一の兄の家で食事をし、酒を飲んでいたとき、⑭使者がヨブのもとに来て言った、「牛が耕し、ろばがそのかたわらで草を食っていると、⑮シバびとが襲ってきて、これを奪い、つるぎをもってしもべたちを打ち殺しました。わたしはただひとりのがれて、あなたに告げるために来ました」。⑯彼がなお語っているうちに、またひとりが来て言った、「神の火が天から下って、羊およびしもべたちを焼き滅ぼしました。わたしはただひとりのがれて、あなたに告げるために来ました」。
⑰彼がなお語っているうちに、またひとりが来て言った、「カルデヤびとが三組に分れて来て、らくだを襲ってこれを奪い、つるぎをもってしもべたちを打ち殺しました。わたしはただひとりのがれて、あなたに告げるために来ました」。⑱彼がなお語っているうちに、またひとりが来て言った、「あなたのむすこ、娘たちが第一の兄の家で食事をし、酒を飲んでいると、⑲荒野の方から大風が吹いてきて、家の四すみを撃ったので、あの若い人たちの上につぶれ落ちて、皆死にました。わたしはただひとりのがれて、あなたに告げるために来ました」。⑳このときヨブは起き上がり、上着を裂き、頭をそり、地に伏して拝し、㉑そして言った、「わたしは裸で母の胎を出た。また裸でかしこに帰ろう。主が与え、主が取られたのだ。主のみ名はほむべきかな」。
㉒すべてこの事においてヨブは罪を犯さず、また神に向かって愚かなことを言わなかった。

第2章 …⑥主はサタンに言われた、「見よ、彼はあなたの手にある。ただ彼の命を助けよ」。⑦サタンは主の前から出て行って、ヨブを撃ち、その足の裏から頭の頂まで、いやな腫物をもって彼を悩ました。⑧ヨブは陶器の破片を取り、それで自分の身をかき、灰の中にすわった。
⑨時にその妻は彼に言った、「あなたはなおも堅く保って、自分を全うするのですか。神をのろって死になさい」。⑩しかしヨブは彼女に言った、「あなたの語ることは愚かな女の語るのと同じだ。われわれは神から幸をうけるのだから、災をも、うけるべきではないか」。すべてこの事においてヨブはそのくちびるをもって罪を犯さなかった。⑪時に、ヨブの三人の友がこのすべての災のヨブに臨んだのを聞いて、めいめい自分の所から尋ねて来た。すなわちテマンびとエリパズ、シュヒびとビルダデ、ナアマびとゾパルである。彼らはヨブをいたわり、慰めようとして、たがいに約束してきたのである。⑫彼らは目をあげて遠方から見たが、彼のヨブであることを認めがたいほどであったので、声をあげて泣き、めいめい自分の上着を裂き、天に向かって、ちりをうちあげ、自分たちの頭の上にまき散らした。⑬こうして七日七夜、彼と共に地に座していて、ひと言も彼に話しかける者がなかった。彼の苦しみの非常に大きいのを見たからである。

第3章 ①この後、ヨブは口を開いて、自分の生れた日をのろった。②すなわちヨブは言った、③「わたしの生れた日は滅びうせよ。『男の子が、胎にやどった』と言った夜もそのようになれ。④その日は暗くなるように。神が上からこれを顧みられないように。光がこれを照さないように。⑤やみと暗黒がこれを取りもどすように。雲が、その上にとどまるように。日を暗くする者が、これを脅かすように。

第38章 この時、主はつむじ風の中からヨブに答えられた、②「無知の言葉をもって、神の計りごとを暗くするこの者はだれか。③あなたは腰に帯して、男らしくせよ。わたしはあなたに尋ねる、わたしに答えよ。④わたしが地の基をすえた時、どこにいたか。もしあなたが知っているなら言え。⑤あなたがもし知っているなら、だれがその度量を定めたか。だれが測りなわを地の上に張ったか。⑥その土台は何の上に置かれたか。その隅の石はだれがすえたか。…

第40章 ①主はまたヨブに答えて言われた、②「非難する者が全能者と争おうとするのか、神と論ずる者はこれに答えよ」。③そこで、ヨブは主に答えて言った、④「見よ、わたしはまことに卑しい者です、なんとあなたに答えましょうか。ただ手を口に当てるのみです。⑤わたしはすでに一度言いました、また言いません、すでに二度言いました、重ねて申しません」。
⑥主はまたつむじ風の中からヨブに答えられた、⑦「あなたは腰に帯して、男らしくせよ。わたしはあなたに尋ねる、わたしに答えよ。⑧あなたはなお、わたしに責任を負わそうとするのか。あなたはわたしを非とし、自分を是としようとするのか。⑨あなたは神のような腕を持っているのか、神のような声でとどろきわたることができるか。」