「これが私の生きる道」—日本百名山

 山から紅葉の季節の声が聞かれるようになると安泰寺からも文集の依頼のメールが来ます。すると今年は何をしていたのだろうか、とフト考えます。私の趣味の一つに「山登り」がありますが、とは言っても40歳の時に仕事柄デスク・ワークばかりで運動不足となり、健康上の理由からの山登りを始めたのであり、山らしい山に登ることは滅多になく、もっぱら山口県内の日帰り登山です。

今年9月初めに旧職場の友人から山行きの誘いがあり、それも北アルプスの剱岳と言って来ました。わたしの技量では、剱岳はとても無理であり、一旦断りましたが、よくよく考えると剱岳が近くに見える所まで行きたいと思い、再度交渉すると幸いなことに山行きの計画を一部変更し、立山を経由となりました。私以外のメンバー6名は山口山岳会、下関山岳会の方でベテラン揃い、私にとってはいろいろと未経験なことばかりで、また日程は秋分の日を利用した3連休で高速道路(片道約900Km)、ケーブルカー、登山道、キャンプ場のすべてが大混雑で、その上テント泊りの山行きで私も食料などリュックに入れて登るのは大変なハード・ワークでした。

でもでも、大変な苦労をしましたがお蔭で立山の山頂からの眺めは天候にも恵まれ、最高でした。標高2,500mにあるキャンプ場で一夜を過ごし、翌日早朝みんなで出発し、私と友人は剱岳の登り口にある剣山荘で待つことになり、山荘のテラスでの鹿島槍ヶ岳の右肩から昇るご来光はとても素晴らしく、友人と飲むモーニング・コーヒーは格別なものでした。

 下山道も大きな峠越えがあり、室堂のバスの出発時刻に間に合わなくなり、近くにある「みくりが池温泉」に宿泊しました。ここは日本一高所にある天然温泉で泉質がとても良く、山登りの疲れも取れ、ラッキーなことになりました。翌朝一番のバスで下山し、山口へ無事に帰ることができました。

 今年はもう一つ日本百名山である祖母山へ、この度は一人でウィークデイに登って来ました。この夏は異常気象なのでしょうか、暑い日々が続き、また秋の台風も多く発生し、台風を避けて10月21日、22日に紅葉を楽しむために静かな山旅/祖母山を登って来ました。

早朝、高速道路を利用し、大分市を経由し、竹田市へ向かい、ここから県道を南下し、祖母山の登山口の駐車場に着きましたが他に車はなく、麓の滝を見て静かな森の道を進み、5合目の山小屋に到着、ここから本格的な登りに入り、汗をかきながら一歩一歩踏み締め登ると急に視界が開け、標高1,490mの国観峠に到着、ここから熊笹の登山道を進むと今夜の宿泊予定の9合目小屋に着き、少し遅い昼食を取り、その後20分の登りで山頂(標高1,756m)到着しました。誰もいない山頂で360度の展望を眺め、フト足元にリンドウの花が一つ咲いていました。ここの山小屋には太陽光パネルや風力発電により電燈や電気コタツも利用でき、快適です。誰も来ないかと思っていたら、夕刻4人グループが到着し、少し賑やかな泊りとなり、でも登山で疲れていることで熟睡し、翌朝はスッキリ目覚め、小屋の外に出ると少し明るくなっており、雲海が四方見え、6:29晴天の東の空に鋭い太陽光が射して、グングンと昇りました。最高!

下山は楽と思っていたら、土の道は滑りやすく、またもや一歩一歩踏み締め、注意し、捻挫をしないように、とは言っても山の紅葉は朝日に照らされ、素晴らしく、写真を撮り、また鳥の声を耳にしながら下りも充分楽しむことができました。下山道でも一人しか出会うことがなく、自然に親しむ山旅となりました。帰りには九重の筌の口温泉に寄りました。ここは共同浴場のみのひっそりした山間の温泉地であり、また昔、川端康成が長期滞在したことで有名となっています。

 以上、今年は立山、祖母山と二つの日本百名山に登ることができ、記念すべき年となりました。なかなか登山も難しく、天候や体調、時間、また友人からの誘いなど多くの条件、当に「因縁」に寄らなければとても自分の力、人間の力だけでは成しようがありません。また特に登山には遭難や滑落、転倒、など事故の発生もあり、無事に成し遂げることは難しく、当たりまえが当たりまえにならないのが登山と言うものです。

 今年の文集のテーマが「私の生きる道」であり、登山道について書きました。ここで「道」にもいろいろ多くあり、自動車道にも高速道路や県道があり、ケーブルカーの鉄道もバス路線もあり、登山道にも登り道下り道、岩の道もあれば土の道もあります。また真っ直ぐな道もあれば曲がった道もあります。人それぞれ自由のようでそうせざるを得ない道もあります。でもいろいろあってすべてが「道」であり「人生道」だと思います。

 最後に、やはり安泰寺に坐りに来る人は、人生道は「坐禅道」なのでしょう。わたしは今年64歳になり、段々と五感も衰え、好きな音楽も今までのようには聞こえません。現代の日本は平和で便利な世の中であるとは思いますが、人それぞれの環境と条件に制約があり、それが当に人生なのでしょう。

 坐禅を始めてから15年を過ぎましたが、日々坐禅に親しむのが我が人生道と心得て、これからも坐禅を続けて行きたい。合掌